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発言語録

「日本とNATO:更なる協力に向けて」

  • 最終変更日時 2007年(平成19年)1月12日

ブリュッセル・NATO本部で開かれた
北大西洋理事会(NAC)において

温かい歓迎の言葉をありがとうございます。

各大使閣下、ご列席の皆様、初の戦後生まれの総理大臣である私が、日本の内閣総理大臣として初めて北大西洋理事会に出席することは、歴史的であるとともに大変嬉しく思います。

先ずは当然のことを申し上げることから始めたいと思います。日本は、国際社会のためになすべきことを実行する用意があるということです。そのためにも、日本は志を同じくする他の世界の国々と、最大限力を合わせていかなければならないということです。

リガ首脳会合の成功に祝意を表します。NATOに加盟していない日本を含む民主主義諸国と関係を強化していくとのNATO首脳のコミットメントを歓迎します。

日本とNATOはパートナーです。日本とNATOは、自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有しています。これらの価値を擁護し、普及していくために日本とNATOが協力していくのは当然のことです。我が国政府は、さきほど述べた基本的価値に基づいた、世界の安定と繁栄を強化していく決意です。一方NATOは、加盟国やパートナーシップの拡大を通じ、自由の輪を拡大してきています。

日本とNATOはグローバルな課題の解決に向けた責任感を共有しています。日本とNATOは、紛争に際して平和の定着を目指し、これまで以上に互いに持てる能力を発揮し共に行動する必要があります。

10年以上前から、日本は、カンボジア、モザンビーク、東ティモール、インド洋、イラクといった様々な地域で国際平和協力活動を行っています。日本はまた、パキスタンにおいても、NATOの部隊と肩を並べて災害救援活動を行いました。

総理大臣就任以来、私は日本国民に対し、日本政府が主張する外交を展開し、実施していくこと、そして日本が国際舞台でしっかりとした役割を果たすべきであることを、明確にしてきました。このような考えに基づき、日本は、NATOと共通の信頼感の上に立って、協力していきたいと考えています。

3日前、私は防衛庁を、他の中央省庁と同格の省に昇格させました。新しい防衛省は、国際平和協力活動を国土防衛とともに本来任務として敢然と遂行する用意があります。

現在、日本政府は国際平和協力の最適なあり方について、自衛隊及び文民の活動に関する一般的な法的枠組みを含め議論しているところです。

憲法の諸原則を遵守しつつ、いまや日本人は国際的な平和と安定のためであれば、自衛隊が海外での活動を行うことをためらいません。日本は、このような考え方に基づき、自衛隊によるイラクやインド洋での活動を行っているのです。

我々の懸命の努力にもかかわらず、目標に未だ到達していない地域もあります。任務遂行のため犠牲となった方々の家族のことは常に私の心の中にあります。アフガニスタンに関して申し上げれば、我々が背負っている差し迫った課題を十分認識しています。また、乗り越えなければならない障害がたくさんあることも十分理解しています。

それでもなお、私は日本国民に、日本はアフガニスタンの未来にかけているのだ、なぜならばアフガニスタンの安定が日本と世界に死活的に重要だからだ、という明快なメッセージを繰り返し語りかけています。

インド洋においては、海上自衛隊の艦船がNATO加盟国9か国を含む「不朽の自由作戦(OEF)」参加諸国に燃料補給を行っています。

日本はアフガニスタンに対し、11億ドルの復興支援を行ってきました。カブール、カンダハル、バーミヤンなどに、何百もの新しい教室を作りました。再建された学校の一つ一つがアフガニスタンの子どもたちにとって希望のともし火だからです。

国際治安支援部隊(ISAF)と日本は力を合わせ、6万人の旧アフガニスタン兵士の社会復帰を果たしました。戦場から家に帰る父親の一人一人が、アフガニスタンの家庭にとって希望の光だからです。

次の難題は12万5千人に上るといわれる非合法民兵の解体です。

私はリガ首脳会合で宣言された内容の多くに賛成します。特に開発なくしてアフガニスタンの安定なしとの考えを共にします。また、NATOと日本を含むパートナーとの協調を強化する必要があるとの見方にも同意します。

このような考え方に基づき、私はアフガニスタンを支援する確固たるコミットメントを表明します。

第一に、ロンドン会合のコミットメントを達成するため約3億ドルの更なる支援を実施します。これにより、道路、空港、農業開発の分野等を中心に、アフガニスタン国家開発戦略を支援します。

第二に、治安分野での支援を強化します。我々はNATOと緊密に協力しつつ、非合法武装集団解体(DIAG)を熱意をもって進めていきます。また、日本は特に、アフガニスタン警察の能力強化に重点をおきます。

第三に、NATOの地方復興支援チーム(PRT)が実施する人道活動との協力を強化します。我が国政府はPRTがアフガニスタンの奥地で果たしている重要な役割を高く評価しています。ついては、初等教育、医療、衛生等の分野を中心とする分野で、どのようにすれば日本の支援活動とPRTの支援活動がより深い相乗効果を持つようになるかを更に追求していきます。このため、日本は、リガ首脳会合で設立が提案されたアフガニスタンに関するコンタクト・グループに積極的に参加します。

第四に、日本は麻薬・テロとの闘いにより大きな役割を果たしていきます。そのため、ドイツ、米国、EUと協調しつつ、アフガニスタン政府の国境管理能力強化に取り組んでいきます。

今日の世界においては、地球上の一方で起きた出来事は容易にその反対側で起こる状況と連動し得るものです。だからこそ私達はイラン、スーダン、アフガニスタン、イラクなどの国々の状況を強く懸念しているのではありませんか。NATOにおいて、イランの核開発とも深く関係している北朝鮮の核実験が議論されたのも、まさにこのためであると考えます。

北朝鮮は弾道ミサイルを発射し、核実験を行ったことを公然と宣言しています。そればかりか、北朝鮮は日本から多数の無辜の人々を拉致しましたが、その中には当時13歳の中学生も含まれます。

北朝鮮の核実験は日本の平和と安定のみならず東アジア及び国際社会全体に対する重大な脅威です。これはまた不拡散体制への重大な挑戦であり、断じて容認できないものです。

この認識は世界中で共有されていると私は確信します。国連安全保障理事会は北朝鮮の無謀な行動に対し決議1718号を全会一致で採択しました。この決議には国連の全ての加盟国が北朝鮮に対してとる義務を負っている措置を列挙しています。北朝鮮が全ての核兵器と核計画を廃棄することを強く求めるため、各国は一致して決議を実施に移す必要があります。

北朝鮮はさきの六者会合で核を放棄する意図をみせず、実質的な協議に入ることを拒否しました。こうした中、安保理決議履行の必要性はかつてなく高まっています。

我が国は、我が国自身の対応として、また安保理の関連決議に基づき厳格な措置をとってきています。こうした措置の結果、日本は、北朝鮮との貿易、資金取引、輸送及び人の移動を、禁止または厳しく制限しています。私は全てのNATO加盟国に対して、具体的な措置を遅滞なく実施するよう求めます。

拉致をめぐる問題は深刻な基本的人権の蹂躙であり、国際社会が一致して取り組む必要があります。この観点から、北朝鮮の人権状況決議が国連総会で採択されたことを歓迎します。NATO各国との協力関係の下、決議を成功裡に採択できたことについて、我が国として謝意を表します。北朝鮮からの脱北者や拉致被害者からは、欧州からの拉致被害者を見たとの証言を得ています。全てのNATO加盟国に対し、北朝鮮に対して、解決にむけて誠実な対応をとるよう強く求めることを要請します。

数日後に、私は第2回東アジア首脳会議出席のためフィリピンを訪れます。アジア地域はダイナミックな変化を遂げており、日本は地域の成長と安定を促すため積極的な役割を果たしていきます。

東アジア地域において、中国は国際社会全体に素晴らしい機会を提供しています。私達は中国が地域において果たすべき責任ある役割を十分に認識しています。私は10月に訪中した際、中国側首脳との間で、共通の戦略的利益に基づく相互互恵関係の構築に合意しました。

同時に、私達は、急速な国防費の増大、透明性の欠如等のいくつかの不確実性が中国を取り巻いていることも理解する必要があります。中国の行く先を引き続き注意深く見守る必要があります。また、中国がこの地域の安全保障環境改善のため、一層多くの責任を分かち合うよう、中国政府との間で対話を継続する必要があります。このため、価値を共有するパートナーたちは、協力を強化していくべきです。

日本とNATOは協力の新たな段階へと移行するべきだと考えます。私の指示に基づき、日本政府は、既にNATOとの今後の更なる関係強化に向けての基礎固めを始めています。平和構築、復興支援、災害援助等の分野で役立つような知識と経験を共有する余地はたくさんあります。

私の内閣の閣僚や政府関係者は、NATOのカウンターパートと定期的に会談することを期待しています。また、日本とNATOが共通に関心を有する分野についてNATO関連会合に積極的に参加することを希望しています。3月に東京で予定されている次回日・NATO高級事務レベル協議は、今後の協力に向けた計画を練る機会になるでしょう。

最後に、将来の世代に向けた私達の使命について述べたいと思います。私達は生まれつつある民主主義を強固なものとし、人権が抑圧されているところにおいて人権の尊重を確固たるものとし、人々が絶望に打ちひしがれたところではより明るい未来への希望をもたらす責任を負っています。

私達の目標は、一人一人の個人が誇りをもって生きられる、より安全な世界を造りだすことです。この目標を現実にするには、私たち自身が能動的に行動すると同時に、長年当然視されてきた考え方の枷から脱却することをおそれてはなりません。我が国は、国際社会におけるより大きな役割を求める世界の増大する期待に応える用意があります。

私の描く日本の将来像は、世界に開かれ、やってくる困難に立ち向かう「美しい国」です。私の指導の下、この構想を実現するため、日本は一連の改革やイニシアティブを推し進めて参ります。

目の前にある課題はあまりに大きく、日本とNATOが別々に行動するような無駄は許されません。これまでの努力の成果の上に立ち、平和で安全な未来を作るため、ともに働こうではありませんか。

ご静聴ありがとうございました。

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衆議院議員第一議員会館 安倍晋三事務所

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